今年のチームスローガンである“本気!!”という言葉は、グラウンド上でも頻繁に使われていますね。この言葉をスローガンにした理由を教えて下さい。
何をするにも“本気”というのは相当な決意がないと使えない言葉です。まだ監督就任が決まる前の話ですが、今シーズンが始まるにあたり、自分がコーチという立場としても、そのほかの役割を担うにしても、自らチームを変えていくくらい本気にならないといけないと思いました。本気になるには情熱がいる。情熱を持った本気は信頼を生む、信頼で繋がれた集団は一体となり、本当の一体感を作り出します。一体感は本気によって作られるものだと思っています。春シーズンを通してそこに関しては達成感を感じていますし、今はそれがチームの強みになっていると思います。今後も、理屈だけじゃなく、そこに本気があるのかないのかがチームのひとつの指針になっていくと思います。
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グラウンドへと続く通路に掲げられたチームスローガン&チーム目標
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監督に就任し、チームが変わるためにまずどこから着手しましたか?
監督を引き受ける上で、まず三つのことから変えていこうと考えました。
まず一つ目が、ラグビーをする以前に自分たちがひとつの組織体であるという認識を持つこと。九州電力という会社が事業活動を通じ、社会への貢献を目指していく中で、シンボルスポーツであるラグビー部がその一端を担っているということを自覚する必要がある。それを自覚させるために、今までは明確になっていなかったラグビー部の存在意義みたいなものを明らかにする「チーム理念」を新たに作りました。組織として、自分たちの存在意義を明確にし、選手個々としても、チームとしても「チーム理念」という共通の認識の上に活動していく、だからチームはぶれることなく、同じ方向を向いて進んでいけると思っていますし、実際に進んでいると感じています。
二つ目はチーム全体で、選手スタッフ間、選手間、スタッフ間での信頼関係を構築すること。信頼関係がないとうわべだけの付き合いになり、うわべだけの信頼関係は壁に当たるともろく崩れます。シーズン開始のファーストミーティングでも、個人がまずみんなに信頼される選手、そして人間であるよう努力しようと伝えました。私は監督としてみんなを信頼しているし、信頼されるに足る人間でありたいと思っています。
三つ目が、本気で勝つための新しいラグビースタイルを確立すること。それが、トライを取るためにすべてのプレーを攻撃的かつ継続的に行うスコアラグビーです。すべてのプレーの最終点はトライにある。それをグラウンドレベルに落とし込むための戦術、戦略、プランを考えて取り組みました。
監督を引き受けるにあたり、まずは以上の三つのことから着手しました。
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新たなラグビースタイルを確立するため、新しいことへの取り組みも多い今シーズンですが、新しいことに取り組むにあたり特に気をつけていることはありますか?
まずはやっていることをはっきりと選手に理解させること。はっきりと理解させ、選手に迷いを与えないことはとても大事で、こちらから示すものに関しては、選手が自主的に考えることは必要ですが、絶対に迷わせてはいけないと思っています。他のスタッフに対しても、今後、選手に様々なものを示していくうえで、絶対に指針をぶらさず、選手が迷うような隙のある指導をしないよう、万全の準備をしてほしいということは伝えています。ひとつひとつのプレー、ひとつひとつの練習がどこにつながるのかを明確にすることで選手も迷いなく取り組むことができますし、最終的には選手たちが自分で考えるようになることを目指しており、そのようなチームへと変わりかけていると思います。
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今シーズン、トライをたたえ合う姿が
以前にも増して見られるようになった |
春シーズン最終戦を終え、勝利に沸く選手たち
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監督として指導する上で、どのようなことを大事にしていますか?
まず選手がグラウンドで自らの強みを発揮できるような指導をしていくことを心がけています。これは、私が学生時代に、宿澤広朗氏という偉大な監督と出会ったことが大きく影響しています。その出会いがあったから、監督としてのいまの私があるのだと思っています。まず選手をそのポジションの型にはめることから始めるのではなく、強みを個性として認め、その個性を伸ばすような指導をし、彼らなりのポジション像を作ってもらいたい。自らが描いたポジション像には、理想と創造性があり、それが向上心に変わり、選手として大きく成長するでしょう。もちろん、それはそれぞれのポジションが持つ最低限の役割は果たすということが前提ですが。それぞれが持つ強みに期待と信頼を込めて試合に使うこともあります。そこには、彼らの責任と自覚を求めています。その責任と自覚こそが弱みを克服するひとつの大きなきっかけになると考えています。このように、強みを活かすことが弱みを消すことでもあるような指導をしていきたいですね。
あと、言葉の力というものを常に意識しています。監督として選手に発する言葉はなにかしらの意味がなくてはならない。選手の心に響かなければ意味がないぐらいの気持ちで話しています。そこにあるのは“本気”です。コーチ時代にどういったコーチングをし、どうやったら選手に伝わるかを考える中で、短く、わかりやすく、インパクトのある言葉、そして論理的で意味を成している言葉が一番伝わると感じました。この選手は、このタイミングでこういう言葉をかけたら伝わりやすいなど、選手の個性もつかめてきました。
また、選手から見て分かりやすい監督でいたいと思っています。この人は今なにを考えていて、なにをしようとしているのか、自分たちになにを求めているのか、周りから見て表情一つ変えない、なにを考えているかわからない上司や先輩というのは、組織にいい影響を及ぼさないと思います。気取らず喜怒哀楽をはっきりと表現して、怒る時は怒り、うれしい時は選手と共に喜ぶ、そのように選手から見てもわかりやすい監督であり、人間でありたいと思っています。
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これから夏に向けてのヴィジョンを教えて下さい。
春シーズンを通してスコアラグビーのベースができたことは実感しています。今後、スコアラグビーをさらに驚異的なものにしていくために、3〜4個のオプションや考え方を導入していきます。夏以降に練習で落とし込み、スコアラグビーをやれば勝てるという自信と確信をさらに選手たちが持てるように取り組んでいきます。まだまだ完成形ではなく、さらに飛躍させていくし、進化させていくつもりです。
そして特に7〜8月は個々のスキルを伸ばす期間でもあり、最も大事といっても過言ではありません。この期間に選手が春シーズンどれだけ成長したのかなどの個々の能力、そしてチームのやろうとしていることへの理解度を把握していきます。春にケガでできなかった選手たちはここでアピールする必要があります。
そして、我々スタッフは、それぞれの選手の能力をしっかりと見極めていくことが求められ、チームを作っていく一歩にしないといけません。その後夏合宿を戦い、徐々に緊張感と確信を持ってチームを作り上げていき、最終的には「九電史上最強」になる予定です。夏以降に関してはそういったイメージを持っています。
春は新しいスタイルを確立していく中で、積極的にチャレンジしていくことを求め、積極的なプレーから起こるミスは容認してきました。しかし、これからは本気で勝つチームになるために精確さも求めていきます。精確さを求めるということは、今後は厳しさとチームの規律が入ってきます。
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今シーズンのヴォルテクスが目指すチーム像を教えて下さい。
今こういう状況のなかでラグビーができていることが当たり前ではなく、会社や家族、ファンの方々のおかげでプレーさせてもらっていることをチーム全員が理解しているし感謝しています。今後も、そういう気持ちを忘れずにやっていかなければなりません。
いまラグビーができる、だからこそヴォルテクスに課せられた使命は大きく、絶対に達成しないといけない目標であると十分に自覚しています。そして、その目標を達成することに大きな意味があることも理解しています。
今シーズン、チームとして強くなるのは当たり前ですが、応援してくれるすべての方々が誇りに思えるようなチームを作っていきたいと思っています。そのために日々の生活と練習を大事にし、みなさんにヴォルテクスの“本気”とヴォルテクスの“スコアラグビー”をお見せしたいと思っています。
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