田村さん:シーズンを振り返ってみると、外から見てヴォルテクスの良かった部分は、シーズン前に慌てることなく身体の土台作りをしっかりと行い、リーグ序盤にピークを持っていくようなやり方がすごく成功したのかと感じているのですが…。
神田監督:そうですね…。昇格を決める前から、昇格した場合、昇格できなかった場合の年間スケジュールを立て、昇格を決めた時点で、身体の土台作りを行っていこうという方向性となり選手に周知して進めていきました。今シーズンも同じく、残留した場合、降格した場合のスケジュールを立て、スタッフの中だけですが、それに向けての準備は行ってきましたので、そういったところで準備ができているので、慌てることはなかったのかもしれないですね。
田村さん:そのあたりの用意周到さについて、神田監督の元々のキャラクターからすると、「絶対負けない!!」と勝った時のことだけを考えそうな感じがするのですが(笑)「残留」、「降格」の2パターンを考えるというのは、どこから来ているのですか?
神田監督:やはり、エイドリアン・トンプソンHCからでしょうか。彼は、非常に慎重な男で、最悪のパターンばかり考えているところがあります。(笑)その分、しっかりとしていて、プランニングにおいては非常に優秀ですね。
田村さん:そう聞くと、神田監督とトンプソンHCがうまく噛み合って、チームが成り立っていると思いますが、このような体制は、この1年で作り上げたのではなく、年月をかけて作り上げてきたのでしょうか?
神田監督:そうです。彼が日本に来て3年経ちますが、初年度は意思疎通がうまくいかず苦労した部分もありました。彼自身も組織、方向性が全く違う日本に来て戸惑ったと思いますし、その部分は2人で、3年という月日をかけてキューデンヴォルテクスの組織、方向性などを作り上げてきました。私も彼を信頼し、彼も私を信頼しているので、うまくいっているのだと思います。
田村さん:運営面、日常面は、オーストラリアから導入し、日本流にアレンジし上手くいっていますが、実際ピッチの上でなぜ上手くいったのか、対等にやることができたのかという点では、どの部分が一番大きいのでしょうか?
神田監督:今シーズンを語る上で、大きな怪我がなかったというのは非常に大きかったです。春シーズンから、怪我をしない身体作りに取り組んできました。柔軟性を高めたり、体幹を鍛えたりすることで、大きな怪我なく安定した練習ができたので、上手くいったのだと思います。
田村さん:取材している立場として見ると、ボールをなるべく動かすというような、ある程度のヴォルテクスのスタイルが見えていて、自分たちのスタイルを持っていることは良いことだと思っていたのですが…。
神田監督:スタイルと言いますか、アタック面では、まずセットプレーをしっかりと安定させること、ブレイクダウンの練習を重ね、ボールをきちんと出すことを大切にし、それが出来て初めて、ヴォルテクスの攻撃パターンのバリエーションが持てたと思います。一つ一つのセットプレー、ブレイクダウンを一生懸命取り組んだことが、自信に繋がりました。
田村さん:ヴォルテクスのスタイルを浸透させるために、それなりの時間、練習の強度が必要となってくると思うのですが、その落とし込みは上手くいったのでしょうか?
神田監督:分析に力を入れることにより、非常に上手くいっていると思います。選手個々の細かいスタッツをつけ、私とトンプソンHCと選手で毎週個人面談を行う際に、試合映像等を利用して選手にフィードバックしています。また、その映像、スタッツ等も選手が見たい時に見れる環境を整えています。
田村さん:では、練習時間を長くしたりするのではなく、それ以外の部分でインプットし、グラウンドやることははっきりしているということですね。
神田監督:そうです。ですから、シーズン中は、試合の反省と次の試合のプランをミーティングで行い、練習に臨む。そんな感じで効率良く行っています。他チームに比べると練習時間は少ないですし、「こんなに練習しなくて大丈夫かな?」と思うときもありました。
田村さん:現役時代、グラウンドでの練習に長く、たくさんの時間を費やしてきた神田監督にとっては、不安だったのではないでしょうか?(笑)
神田監督:そうですね。本当に不安でしたね。(笑)今思えば、効率良い方法を早く教えてほしかったですね。(苦笑)ですが、落とし込む方法の違いだと思います。
田村さん:良いところが沢山出たシーズンであり、怪我人も少ない状態でシーズンを戦えたと思いますが、例えば、ナイサン・グレイのような必要不可欠の選手が怪我で欠けたりすると、大きくチーム力が落ち、多少なりとも不安は出てくると思うのですが…。
神田監督:次の課題として反省点の中でも上がっていることなのですが、ゲーム数が多い中で、それを戦えるだけの十分な戦力というものを揃えたいと考えています。おっしゃった通り、ナイサンがいない場合のことも考えなければいけないですし、誤解を与えるような言葉ですが、良い意味での「脱ナイサン」、「脱川嵜拓生」とリーダーがいなくとも、次のリーダー達がうまく機能してくれるかどうか、というところが来シーズンの課題なのかなと思ったりもします。
田村さん:そのためには、春シーズンの試合では、意図的に若手などを起用していくことが必要となってくると思いますが、そのような計画はあるのでしょうか?
神田監督:今シーズンはもちろんその方向性で行っていきます。昨年試合に出ていない選手に多くの試合を経験させるために、春シーズンは、試合を多く組んでいます。
田村さん:大きく言いますと、昨年は1stフィフティーンのレベルを高め、今年は1stフィフティーンだけでなく、その次なるメンバー達のレベルも高めなければいけないということですね。そう考えると、大変ですね。
神田監督:確かに、そうですね。今シーズンは、昨シーズンまでPRに外国人選手が出場していましたが、彼が帰国後、田尻亮が本当に良く頑張って良い働きをしてくれましたし、田尻が怪我で戦列を離れた際には、松尾健一が頑張ってくれました。トップリーグに昇格したことで、「トップリーグの舞台で試合をしたい!」という気持ちを持った選手が非常に多くなりました。下部リーグ時は、何となくその流れでやっていたような所もあったのですが、トップリーグで大勢の観客に囲まれ、注目されることで、選手たちは「いつでも自分たちがその舞台に立てるんだ!」という自信、希望を持って練習に取り組んでくれています。
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